第14世ダライ・ラマ法王 大阪講演<全訳>

21世紀はわずか10年しか経っていないが、まだ90年残っている。
より平和な世紀をつくるために、願うだけでは駄目で、はっきりとした見通しと見解が必要だ。
そこで、世界平和を求めるために、日本にはとても大切な役割がある。
第2次大戦で世界で唯一、被爆を体験した。核兵器の無い世界を構築する指導的役割がある。
 
20世紀は人間の歴史の中で意義があった。
科学技術、物質的な繁栄。経済的なシステム。国際的な相互関連。
人間は多くの調査をし、新しいより良き物をつくってきた時代。
その反面、様々な暴力、戦争もあった時代。
過去の過ちを認識し、21世紀を平和な時代にしないといけない。
そのためには祈るだけでは駄目だ。世界平和を唱えるだけでも駄目だ。
人間の知性の根本に暴力的な考え方がないか?

意見の違う人達は必ず存在するので、平和的な解決方法を模索するのが21世紀。
それはすなわち「対話」であると思っています。
私自身は仏教徒で、日本人の多くの皆さまも仏教徒であるわけですが、
祈るだけで平和を求めるのではなく、科学技術によって平和を実現してきた一面もあります。
しかし、その反面、私たち人間を脅かすものともなっているわけです。
科学技術やお金で平和を実現しようというのは間違いです。
過去200年を考えると科学技術の発展により、生活が豊かになった。
日本だけでなく世界が科学技術の発展に依存してきた。
しかし21世紀はこのような物質的繁栄に限界が出てきている。
人々の幸福、心の平和からは遠くなってきている。
 
脳科学者は心の研究をしているが、結局のところ心の平和は自らつくらなくてはならないという。
彼らの研究によると、他人の心の平和について取り組んでいくと、どんどん自らの免疫力が低下し、
かえって心の平和や健康が害されていくこともあることが研究成果で報告されている。
それを踏まえた心のケアが必要だ。
私はチベットという自分の国を失ったが、その結果、自由の国でたくさんの科学者と対話する機会を得た。
アメリカでも心の中の平和をいかに実現するかが大学で研究されている。
人間の破壊的な感情―仏教ではこれを煩悩と言うが、これをいかに抑制していくか研究をしている。
 
私は日本の若い世代に英語を話すことを勧めている。
国内だけではなく世界とコミュニケーションできるはずなのに。
先進国でも後進国でもこれは変わりません。
私自身の英語も貧相であるが、ブロークンでも英語を話せばよい。
スペイン訪問の際、カトリックの神父さんとお会いした。
この方は山に籠り隠遁生活をされていたが、「愛」について瞑想をされていた。
彼も英語は出来なかったが、彼の眼がとても慈愛に満ちており、キリスト教からも我々と同じ可能性を感じた。
私たち人間は全て苦楽を体験し、苦しみを取り除きたいと思っている。
私たちには様々な宗教があるが、それは幸せになるための手段に他なりません。
しかし、五感で感じる感覚的な幸せではなく、純粋に心から生じる幸せを求めるべきだと思います。
心から生じる幸せを持たなくては、本来の幸せや満足を感じることはできません。
物質的な考え方の限界とは、こういうことを言うのです。
宗教に基づく信心によって自分の可能性を拡げるということは、全ての宗教でも同じです。
しかしながら、いつも強調するのは宗教を持たない人も多いわけですから、世俗的な倫理観も必要です。
生態的・常識的・道徳的な価値観です。
前世・来世、天国・神様の話をしているわけではなく、家庭や社会が幸福であるべきだとも思います。
 
現代はそれぞれの国が独立して存在しているだけでなく、お互いが相互依存によって存在している。
例えば環境。今までは力によって解決してきたが、それは間違いであり、
隣人を助け、その人のためになることは、ひいては自分のためになる。
全ての人が共通の利害を持つという感覚。
それらは全て人間の心のありようから起こるのです。
自分自身の心の中にある破壊的な感情―
煩悩では物事をあるがままに見たり、多方面から全面的に見たりすることはありません。
物事をあるがままに見ることがいかに大切か。
目に見えているものだけが全てではなく、心にあるものだけが全てでもありません。
これらでさえ、あるがままの現実とは大きなギャップがあるのです。
 
世界には様々な人がいて、問題を起こしてしまう人々もいるわけです。
戦争やテロの原因は、相手を思いやる優しさ、知識、教養、因果応報を信じることが大切。
70億の人類には無宗教の人もいるが、全ての人が正しく教育を受ける必要がある。
例えば母親の愛情。愛情の体験は非常に大切。生物学的に悪い感情は免疫を低下させる。
常識的なものの考え方。隣の人も幸せにする考え方。
お互いにともに幸せを求める。瞑想によって健康になる。
自分の心を平和にする訓練は、宗教的信心によるものだけではない。
心の平和が訪れたとき、世界の平和が訪れる。
自分さえよければという考え方を改める。
社会全体を平和にするには個人個人のうちなる平和、
全体の一部であるという認識をもつことが、21世紀の平和をつくります。
あなたがたの肩にそれはかかっている。その責任をもって賢く考えてほしい。
 
 
 
 
 
(この内容はJC大阪主催のPeace Conference 2010におけるダライ・ラマ法王の講演内容を、
畠中光成が書き留めたものです。)

はたなか光成 <元衆議院議員>公式HP

元衆議院議員 はたなか光成(無所属)の公式HPです。